『理由がわかればもっとおいしい! コーヒーを楽しむ教科書』と、香りの向こうにある知識
朝の空気に、コーヒーの香りが漂うとき。
まだ世界が静かな時間帯に、カップから立ちのぼる湯気を眺めると、それだけで少し心が落ち着きます。
そんなささやかな瞬間を、もう少し丁寧に味わいたい──そう思わせてくれる本に出会いました。
『理由がわかればもっとおいしい! コーヒーを楽しむ教科書』(ナツメ社)です。
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おいしさの理由を知るということ
タイトルにある「理由」という言葉が印象的でした。
コーヒーのおいしさには、香りや味わいの好みだけでなく、豆の種類、焙煎の度合い、水の温度、抽出時間など、いくつもの要素が重なっています。
この本は、それらの要素を“なぜそうするのか”という視点からわかりやすく解説しています。
監修は、ワールド・バリスタ・チャンピオンの井崎英典さん。
専門的な内容でありながら、難解さよりも温かみを感じさせる語り口が魅力です。
イラストと実感で学ぶコーヒーの教科書
ページをめくると、豆の選び方から抽出器具の特徴、ドリップの手順、味の違いの見分け方まで、イラストを交えて丁寧に説明されています。
視覚的に理解できるので、文字だけでは難しい“お湯の落とし方”や“蒸らしのタイミング”といった感覚的な部分もすっと入ってきます。
まるでコーヒーを一緒に淹れてもらっているような、そんな親しみやすさがあります。
知識がもたらす安心感
コーヒーを淹れるという行為は、日常の中でほんの数分の出来事です。
けれど、その背後にある理由を知ることで、何気ない動作が少しずつ変わっていきます。
お湯の温度を少し低めにしたり、豆を挽く音をゆっくり味わったり。
そんな小さな変化が、味わいにも心にも穏やかな余韻をもたらしてくれる気がします。
この本が伝えるのは、“上手に淹れる方法”ではなく、“楽しむための準備”なのかもしれません。
初心者にも、長く付き合える一冊
レビューでは「入門書として読みやすい」との声が多いようです。
確かに内容は基本的な部分から始まりますが、そこに書かれているのは、誰にでも通じる“おいしさの根っこ”のようなもの。
経験を重ねても、時々立ち返りたくなるような安心感があります。
豆を選ぶとき、少し迷ったらこの本を開いてみる──そんなふうに、長く手元に置ける教科書だと思いました。
おわりに
コーヒーを淹れる時間は、日常の中で自分に戻るための儀式のようなもの。
『理由がわかればもっとおいしい! コーヒーを楽しむ教科書』は、その儀式を少しだけ豊かにしてくれる案内書のように感じました。
お湯を注ぐ音、漂う香り、ゆっくりと満ちていく時間──そのすべてに理由があると思うと、いつもの一杯が、少しだけ特別に感じられます。