伊那のまゆ
「伊那のまゆ」というお菓子の名前を、最近になって初めて知りました。
長野県の伊那市にある老舗・越後屋菓子店が手がけている銘菓で、繭(まゆ)をかたどった不思議なかたちが目を引きます。
見た目はまるで洋菓子のようですが、土台は最中の皮。
そこにホイップクリームを詰めて、チョコレートでコーティングしたものだそうです。
和と洋をやわらかくつなぐような構成で、食感や風味のバランスにもこだわりが感じられます。
伊那地方といえば、かつて養蚕が盛んだった地域。
その記憶をかたちに残すように、「まゆ玉」を模したこのお菓子が誕生したのだと知り、ひとつの地域の歴史とお菓子が静かに結びついていることに、心が温かくなりました。
昭和30年代に考案された当初は、あまり売れなかったといいます。
それでも手づくりの製法を守り続け、いつしか口コミで評判が広がり、今では模倣品まで出るほどの人気なのだとか。
SNSでも話題になっていて、チョコレートの光沢やコロンとした姿が写真映えすると紹介されていました。
特別な機械を使わず、ひとつひとつ手作業で仕上げているという点も、このお菓子の静かな魅力だと思います。
贈りものとして箱詰めされた姿にも、やわらかな気品が漂っていました。
東京・銀座のアンテナショップ「銀座NAGANO」でも購入できるとのことで、遠く離れた場所からでも、その土地の空気を少しだけ感じられるような気がします。
ほんのり甘くて、どこか懐かしいものが好きなわたしにとって、「伊那のまゆ」は静かに心を惹く存在でした。
まだ味わったことはありませんが、きっとそのまろやかさの奥には、長い時間と土地の記憶が息づいているような気がしています。