野木亜紀子『アンナチュラル』シナリオブックと、言葉が紡ぐ静かな余韻
本のタイトルに「アンナチュラル」とあったとき、思わず立ち止まってしまいました。
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ドラマとして耳にしたことのあるその名前が、文字として目の前に現れると、画面の向こうで見た物語が紙の上に息づくようで不思議な感覚になります。
2024年8月に刊行されたこの本は、脚本家・野木亜紀子さんが手がけたドラマ『アンナチュラル』のシナリオをまとめたもの。
未だ読んでいないのに、その存在だけで心の奥に小さな波紋が広がっていきました。
シナリオとして読む物語
映像作品を「脚本」という形で読むことは、わたしたちにとって新鮮な体験です。
ドラマでは俳優の声や表情、光や音楽が物語を彩りますが、シナリオブックでは言葉だけがすべてを支えています。
UDIラボのメンバーが「不自然な死」と向き合う姿を、文字のリズムや台詞の余白から想像する。
その過程は、まるで舞台裏を覗くような親密さを感じさせます。
“不自然”の奥にあるもの
「不自然死」という言葉自体が、どこか心をざわつかせます。
普通であるはずの人生が、ある瞬間に途切れてしまう。
その背景には、誰かの嘘や社会の影、あるいは静かに積み重なった悲しみが隠れているのだそうです。
調べるうちに、各話のタイトルに「名前のない毒」「死にたがりの手紙」といった言葉が並んでいることを知り、読者自身もまた、何かを探り出す探偵のようにページをめくっていくのだろうと想像しました。
紙の手触りと声にならない台詞
このシナリオブックには、野木さん自身のあとがきや、制作の裏話も収められていると紹介されていました。
手に取ってページをめくるたびに、ドラマで流れていた音楽や役者の表情が頭の中に再生される。
その瞬間、言葉が映像に変わり、文字の隙間から静かな息づかいが聞こえてくるようです。
夜更けに灯りの下で読むと、台詞の一つひとつが自分の心に問いかけてくる気がして、息を潜めてしまいそうです。
小さな特典がもたらす温もり
初回特典として「UDIラボのIDカード型しおり」が付いている版もあるそうです。
紙のページの間に差し込むたび、物語の世界と自分の暮らしがひとつながりになっていくように思えます。
本を閉じてもなお、その小さなカードが時間のしるしのように残る。
シナリオブックそのものが、一種の記憶装置なのかもしれません。
おわりに
『アンナチュラル』のシナリオブックは、ドラマを観た人にも、まだ触れていない人にも、それぞれ違う静かな余韻をもたらしてくれるのだと思います。
言葉だけで物語を追うことで、目に見えない感情や影の部分に、より深く耳を澄ませられるような気がしました。
ページを閉じたあとも、どこかで誰かの声が残響する——そんな読書体験を、いつかこの手で味わってみたいです。