ジェーン・スー『介護未満の父に起きたこと』――その“あいだ”を生きる時間
老いは、ある日突然「介護」という言葉に変わるわけではありません。
けれど、確実に何かが変わっていく。
その“あいだ”を描いた一冊が、ジェーン・スーさんの『介護未満の父に起きたこと』(新潮新書)です。
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「まだ大丈夫」と「もう無理かもしれない」のあいだ
82歳の父親が、ひとり暮らしを始めたところから物語は始まるそうです。
体力も記憶力も少しずつ衰えていく中で、それでも「自分の生活は自分で」と思いたい父。
そして、現実的に支えざるを得ない娘。
「老人以上、介護未満」と呼ばれる、あいまいで現実的な時間の中にある、生活の揺らぎや感情の機微が丁寧に描かれています。
介護保険の制度にまだ乗らない人たち。
けれど、何もしないわけにはいかない。
そのはざまで生まれる「見えないケア」をどう続けるか――この本は、その問いを淡々と、しかし深く見つめています。
“ビジネスライクな優しさ”という選択
著者は「喧嘩しない」をモットーに、父を支える日々を記録していきます。
食事の手配、掃除の段取り、外部サービスの利用。
どれも愛情の延長線にあるはずなのに、時には疲れや苛立ちも顔を出す。
それを感情ではなく、仕組みとして整理していく姿に、静かな強さを感じました。

「家族だから」「娘だから」という言葉を手放し、必要なことを淡々とこなす。
その距離感を保つことで、親子の関係を壊さずに守ることができる――そんな実感が、行間からにじみ出ています。
老いの始まりを見つめる視線
“介護未満”という言葉が示すのは、社会の制度の隙間で生きる人たちの現実でもあります。
支援の対象になる前の段階にこそ、もっと多くの工夫や声が必要なのだと、この本は教えてくれます。
そして、親の老いを見つめることは、やがて自分の未来を見つめることにもつながっていく。
「老い」は遠い話ではなく、わたしたちのすぐ隣にあるものなのだと、静かに語りかけてくるようです。
おわりに
人が老いていく過程は、悲しみではなく、変化の記録でもある。
それをまっすぐに書く勇気と、支える人の静かな覚悟。
この本には、“介護”という言葉に覆われる前の、もっと人間的な時間が流れているように思いました。








