真知子巻き
先日、表参道を歩いていたとき、風に揺れる涼しげなスカーフを首元に巻いた女性を見かけました。
その人のスタイルは、どこか懐かしくて新しいような、不思議な魅力があって。
特に目を引いたのは、スカーフの巻き方でした。
よく見ると、それは「真知子巻き」と呼ばれるスタイル。
スカーフを頭からかぶり、あごの下で軽く結ぶ巻き方です。
ふわりと髪が隠れて、顔まわりにやさしい陰影が生まれていて、クラシックで凛とした雰囲気。
わたしの母もどこかでそんな巻き方をしていたような…そんな記憶がよみがえってきました。
その日の夜、気になって「真知子巻き 巻き方 スカーフ マフラー」と検索してみると、1950年代に大ヒットした映画『君の名は』が由来だと知りました。
女優の岸惠子さんが演じたヒロイン・真知子がこの巻き方をしていたことで、多くの女性たちが真似をしたのだそうです。
わたしは映画そのものを観たことはなかったのですが、岸惠子さんの写真を見るだけで、当時の空気感が伝わってくるようでした。
モノクロの画面に映る真知子巻きの姿は、まるで時を超えて届いた美しさ。
雨や風を避ける実用性と、女性らしいたたずまいを両立したスタイルだと感じました。
そして何より驚いたのは、今のファッションとも自然に馴染むこと。
さっそく手持ちの薄手スカーフで試してみたところ、リネンシャツにデニムというシンプルな装いにも、程よいアクセントになってくれました。
首元に巻くよりも涼しく、髪がまとまらない日にも使えるので、梅雨の時期にもぴったりです。
ある日の夕方、思い切って真知子巻きで近くのカフェまで出かけてみました。
アイボリーのノースリーブに、淡いブルーのスカーフを合わせて。
最初はちょっと緊張しましたが、通りすがりの年配の女性がはっとした様子でこちらを見ていて、なんだか少し嬉しかったです。
街の空気に溶け込むように見えて、どこか芯のあるスタイル。
真知子巻きには、そんな魅力があるのかもしれません。
今はインターネットで巻き方をいくらでも検索できる時代。
「巻き方 スカーフ マフラー」と調べれば、動画や写真がたくさん出てきます。
でも、その中に混じって、こういうレトロなスタイルが再評価されているのを知ると、なんだか本物を知ったような気持ちになります。
真知子巻きが生まれた時代、スカーフはきっともっと日常的で、大切なアイテムだったのでしょう。
少しの工夫で自分らしさを演出できる、その自由さこそがファッションの原点なのかもしれません。
暑さが本格的になる前のこの時期、軽やかなスカーフ1枚で季節を楽しむ。
そんな真知子巻きのスタイルを、今の暮らしの中にそっと取り入れてみるのも悪くないな、と思っています。