早見和真『ザ・ロイヤルファミリー』と、受け継がれていくもの
タイトルを見ただけだと、王家の物語かと思う人もいるかもしれません。
確かに、早見和真さんの『ザ・ロイヤルファミリー』は、血統と継承を描くという点では、まさに“王家”の物語と呼ぶにふさわしい小説です。
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舞台は競馬の世界――人と馬、そして家族の20年にわたる物語が静かに、けれど確実に熱を帯びて展開していきます。
競馬という鏡に映る人間
競馬と聞くと、華やかなレース場や歓声のイメージが浮かびます。
けれどこの作品で描かれるのは、その裏側にある人の感情の複雑さ。
血統という言葉が、ただの言葉ではなく“宿命”のように響いてくる。
それは、馬にだけでなく、人間にも同じように流れるものなのだと感じさせます。
主人公は税理士の栗須栄治。
ある日、父の死をきっかけに人生の空白を抱え、馬主一家のもとへ足を踏み入れることになります。
彼が出会うのは、情熱と欲望、信頼と裏切りが交錯する世界。
その中で、どのように“家族”というものと向き合っていくのか――
それが物語の核になっています。
継がれていくものの重さ
「ロイヤルヒューマン」という会社名や、競走馬に付けられた「ロイヤル」の名。
この繰り返される言葉には、“受け継ぐ”という意味が込められているように思えます。
親から子へ、馬から馬へ。
血の中にあるものだけでなく、言葉や約束、そして裏切りまでもが次の世代に残っていく。
人は、受け継ぎたくないものまで受け継いでしまう。
でも、それを抱えて生きることが、誰かの人生を支えていくことでもある――
そんなテーマが、この物語の底に静かに流れているように感じます。
熱を内に秘めた筆致
早見和真さんの作品には、いつも“静かな激情”のようなものがあります。
登場人物が大きな声で叫ぶことは少ないのに、その沈黙の奥に火が見える。
『ザ・ロイヤルファミリー』もまた、派手さよりも、積み重ねの重みで読者の心を揺らす物語です。
そして、現実の競馬を知らなくても、人間の営みとしての“勝負”が伝わってくる。
夢を追う人の孤独、家族の複雑な愛情、そして継ぐということの痛みと誇り。
そうしたものが、どのページにも滲んでいるように思います。
おわりに
『ザ・ロイヤルファミリー』という題名には、どこか矛盾する響きがあります。
“ロイヤル”の誇りと、“ファミリー”のあたたかさ。
その間にある苦しみや誇りこそが、人の生き方をかたちづくるのかもしれません。
また、作品の背景にある「継承」という言葉に惹かれます。
それは家族や血縁に限らず、日々の中で誰かから受け取り、また誰かに渡していくもの――
記憶や想い、あるいは小さな癖のようなものまで、すべて“ロイヤルファミリー”を形作る貴重な欠片のように思えました。